〜 就学前教育研究員会「アンケート」の結果より 〜
熊本県人教研究部「就学前教育」研究員会
*−−* も く じ *−−*
1. 就学前教育研究員会「アンケート」の目的
2. 調査対象
3. 調査期間
4. 回答数
5. 回答内容とそれから見えてきたこと
(1) 「小1プロブレム」のような実態があれば具体的にお書きください。
(2) 支援体制とそれが役立っていると思われる点をお書きください。
(3) 「小1プロブレム」を克服するために必要なものは何だと思いますか。
(4) 小1・2年生に限らず、子どもに関わって気になることがあればお書きください。
(5) 「くぐらせ期」ということばを知っていますか。
(6) 「くぐらせ期」の実践を知っていますか。
6. 「アンケート」結果から
7. 関連資料
(1) 「アンケート」調査項目
(2) 「くぐらせ期」の実践指導案例  国語科指導案 −「ひ」の授業−

1. 就学前教育研究員会「アンケート」の目的
 社会の大きな変化により家庭や地域の教育力が低下する中、十数年前から「子どもが主体的に遊べない」 「人間関係づくりが苦手で、すぐにトラブってしまう」と いち早く気づいた保育所・幼稚園では、「どうしたら子どもたちが豊かに遊べるようになるか」と保育(教育)を創造してきました。
 一方、学校教育は、子どもの置かれている状況の認識や子どものとらえ方があまり変わって来ませんでした。 そんな学校教育との間の段差に、入学したばかりの子どもたちが戸惑い、からだごと訴えている「小1プロブレム」が注目されて、数年が経過しました。
その間、学校現場では、加配・少人数指導等が導入され、表面的には落ち着きをみせてきているところもあります。 しかし、「小1プロブレム」の背景を考えたとき、子どもたちを取りまく状況が必ずしもよくなったとは言えません。
 そこで、いま一度、小学校の人権教育指導教諭配置校の1・2年生担任を対象にアンケートを実施しました。
 低学年の子どもたちの実態や「小1プロブレム」に対する私たちの意識や背景を探り、課題を明らかにし、 「なだらかに育ちをつなぐ」ための具体的取り組みの方向を探る研究活動につなぎたいと思います。
2. 調査対象
 小学校の人権教育指導教諭配置校の1・2年生担任
3. 調査期間
 2005年7月〜9月
4. 回答数
 小学1年生 51学級
 小学2年生 41学級
5. 回答内容とそれから見えてきたこと
(1)
「小1プロブレム」のような実態があれば具体的にお書きください。
 [ 回答 ] −複数回答−
・落ち着きがなく、手あそびやおしゃべりに集中して話が聞けない。 37
・授業中席を立ったり、教室から出て行く。じっとしていられない。 25
・コミュニケーションがとれず、ことばが攻撃的。手や足がすぐ出る。
・特にない。 20
入学した子どもたちに「話が聞けない。授業中席を立ったり、教室から出る。」といった「小1プロブレム」の象徴的な姿が、 変わらず多くある。2年生でも、同じような状況が引き続き見られる場合は、子どもの実態と共に、1年生の一年間で状況を改善するための取り組みができていたのか、 点検する必要があるのではないか。
誕生してからの数年間、画・音・光の情報過多(刺激)の中で暮らしてきた子どもたちであることを前提にすれば、 教師一人の話のみで長い時間集中させようとすることに無理がある。話が聞けないのが当然とのスタンスで子どもと向き合うべきではないか。
就学前の取り組みに学ぶべきものが大きいのではないか。
「特にない。」が少なからずあることは、以前と変わらない子どもの姿なのか、 教師が課題を捉えていないのか不明である。
(2) 支援体制とそれが役立っていると思われる点をお書きください。(複数回答)
 支援体制についての回答
  少人数 TT 補助
小学1年生(51学級) 13
小学2年生(41学級) 12
・個別指導、理解できない子への細やかな支援や注意等。 35
・気になる子を見てもらうことで、一斉指導ができる。 11
・共に日常指導や相談ができるので、子どもの様子がよく見える。 11
1対1での対応を要求する子どもが増えてきていることから、支援体制が整えられることで、学習指導(一斉・個別)や個に応じた 生活全般にわたる支援に役立っていると考えられる。
支援体制があることで、細かな日常指導ができ、子どもの様子がよく見えるというのは重要である。
「指導について相談ができる」も、担任が一人で抱え込まず、教職員間のコミュニケーション・学び合いの体制として意義がある。
個への関わりができやすいことや、相談準備等指導者の余裕につながっている。 しかし、逆に考えれば、支援体制がなくなったとたん元に戻ってしまうこともあり得るのではないか。
(3) 「小1プロブレム」を克服するために必要なものは何だと思いますか。
@授業に関わって
内容を減らし、ゆっくり教えられるよう。(1学期はひらがなのみ)
体験活動や作業中心の実践が必要。エネルギーを発散できるようなもの。
具体物を使う。飽きさせない活動を取り入れる。
1時間(45分授業)の弾力的な運用。  
就学前でされているような遊びの中で学習する。  
時間の確保ができれば、くぐらせ期の実践をした方がいい。  
子どもたちが自分の思いを十分に出し、友だちとつながり合える授業。
子どもが満足できる身体活動。
学習の基本的なやり方やこまめな学習訓練を身につけさせたい。
楽しくわかる授業の工夫。
A集団づくり・なかまづくりに関わって
班活動、ふれあい活動の実施回数を多くする。
一人ひとりの子どもを知り認める。温かく肯定的な学級の雰囲気。
Bその他の教育内容
ゆとり(遊びや学習も)を持って関わることのできる時間の確保。
幼・保・小連携の中で、共通理解を持って教育内容を決め、進めていく。
異年齢交流。園と合同の行事。
子どもとの信頼関係づくり。  
LDやADHDの児童の支援体制・教育プログラムを用意する。  
わからない。  
学力の保証・・・個別指導や能力別学習。  
学習のきまり等をきちんとする。  
軽度発達障害についての理解。  
45分の一斉指導だけでは無理がある。特に一年生の一学期は、保幼と小の段差のない取り組みを具体的にやっていく必要がある。
「体験活動」「遊びの中で学ぶ」「活動・作業中心の実践」等、従来から現場で取り組まれて来てはいるものの、 小一プロブレムの克服をその目的として据える時、就学前教育からのなだらかに「そだち」をつなぐための具体的な保育・教育内容として、 積極的に取り組むべき内容である。
小1プロブレムの克服を 「LD」や「ADHD」の児童の支援体制や「能力別学習」などに求める考えは問題である。
C条件整備
TT、少人数加配、学習補助、二人(複数)で教える。指導体制。 41
1学級20人以下にする。 18
個別指導、教材研究・準備、子どもと一緒に遊ぶ・語り合える時間の確保。
入学からしばらくは、床の上で授業をする。  
ノーチャイムにするなど、園のやり方から少しずつ慣らしていく。
職員の協力体制。職員全体で関わる。何かあれば相談できる体制。
園に行き子どもたちの様子を知ること。ハードルの高さがわかる。   
基礎基本を徹底させるための時間確保。  
専門機関への相談体制。  
形は様々であるが、人的条件整備の要求が多い。教材研究や学級経営の工夫をする時間、 園との連携やゆとりを持って子どもと関わる時間の余裕が欲しいと言うことではないか。
子ども自身に関わっては、小学校に慣れさせる工夫と時間(ゆとり)も必要。
Dその他
家庭との連携・・・
家庭でのくらしをひきずって来る子が多い。親の思い、子どものくらし等つかみながら共に育てていかなければ変わらない。
11
幼保小の連携・・・
連絡を密にし、交流などを通して、互いの問題点を明らかにし、在園中から受け入れ準備ができているようにする。合同の研修。
14
課題の子への教師集団の共通認識。相談にのってくれる人の存在。
保護者への啓発、意識付け・・・
子どもが人の話を聞けるように躾をしておく。わがまま、勝手、人に迷惑をかけることを許さない保護者の姿勢。 子育てへの自覚、学校でできること、できないことがあることを伝える。
 
家庭との連携の前提として、親の思い、子どものくらしに寄り添った信頼関係づくりは欠かせない。
幼保小の連携は、小学校からの視点だけではなく、就学前から学校を見る視点も必要だと思う。
学校の中だけでは子どもの姿は捉えきれないと、連携の必要性を感じてはいるが、 家庭・保護者の躾・姿勢のせいにする考え方は克服しなければならない。
(4) 小1・2年生に限らず、子どもに関わって気になることがあればお書きください。
聞く力の低下・指示が通らない・コミュニケーション能力不足
自尊感情が低い。  
できないこと、したことのないことに対して、不安がり「したくない」「できない」「できなくてもいい」と、 その場から逃げようとする。
基本的生活習慣の低下。以前身についていたものが、身についていない。
がまんする力の低下。
くらしのサポートが必要な保護者の増加。家庭の教育力の低下。
特別支援を必要とする子どもの増加(学習障害やADHD等解明されてきたからかもしれないが)  
聞いたり話したりといった、コミュニケーション・自己表現の苦手な子どもが増えてきており、人間関係がうまく結べない。
子どもたちを取りまく状況をよりよい方向へ向かわせる上で、学校と園・保護者との連携はなお重要である。 アンケートの回答の多数がこのことを指摘している。また、家庭の教育力の低下をいう意見もあるが、そうである状況をふまえ、学校に何ができるのかということを 考えていかねばならない局面にあるという現状認識が必要ではないか。
いわゆる「発達障害」のせいにしていることは、私たちの課題である。
(5) 「くぐらせ期」ということばを知っていますか。
はい 29
いいえ 59
(6) 「くぐらせ期」の実践を知っていますか。
はい 13
いいえ 73
6. 「アンケート」結果から
 今も、入学した子どもたちに「話が聞けない。授業中席を立ったり、教室から出る。」 といった「小1プロブレム」の象徴的な姿が変わらず多くあることが読み取れます。しかし、その受け止めは、数年前学校現場にあった「子どもが変わった。」 という戸惑いから、「1対1での対応を要求する子どもが増えてきている。」との現状認識に変わってきているようです。その上で、克服するために 一つは少人数加配・TT等の支援体制があり、子どもたちにきめこまかな関わりができていることがわかります。

 さらに、具体的な教育内容として、「体験活動や作業中心の実践」「エネルギーを発散できるようなもの」「具体物を使う。飽きさせない活動を取り入れる。」 「45分の授業時間の弾力的な運用」「就学前でされているように遊びの中で学習する。」「子どもたちが自分の思いを十分に出し、友だちとつながり合える授業。」等が 必要と回答されています。これは、就学前教育の重要性が高まり、各地で様々な就学前と小学校の交流(おとな・子ども)が行われ、単なる情報交換にとどまることなく、 教職員の体験保育なども取り組まれ始めたこともあって、小学校の中に「就学前の取り組みに学ぶべきものが大きい。」との認識が拡がっているのだと考えます。 誕生してからの数年間、画・音・光の情報過多(刺激)の中で暮らしてきた子どもたちに、保育園(所)・幼稚園の中で大切に保障されてきた取り組みがあります。 それを、卒園の時点で途切れさせるのではなく、日々の学校でのくらしにつないでいかなくてはなりません。 上記にある、「小1プロブレム」を克服するために必要な教育内容に応える具体的な取り組みとして、これまで熊本県人教は「くぐらせ期」を提起してきました。 しかし、その実践の魅力をまだまだ届けきれていないことがわかります。

「同和」教育は、「子どものくらしの現実からスタートする」ことから、子どもや親のせいにするのではなく、そこにいる子どものことを丸ごと受け入れ、 私たちに何ができるのか考え、実践してきました。一部に「小1プロブレム」をいわゆる「発達障害」と結びつけた捉え方や「わがまま、勝手、人に迷惑をかけることを 許さない保護者の姿勢、子育てへの自覚・・」といった回答が少なからずあることは、私たちが克服すべき課題です。
進路保障の入り口としての「就学前」からなだらかに「そだち」を引き継ぐために、「くぐらせ期のかな文字指導」を届けたいと思います。

 2006年3月に、実践例を集めた小冊子を発行いたします。学校現場での実践の参考にしていただければ、幸いです。 あわせて、その内容は熊本県人教ホームページにも、掲載を予定しています。
7. 関連資料
(1) 「アンケート」調査項目
1.あなたの学年の学級数は?〔  〕学級
2.あなたの学級の在籍数は?〔  〕人
3.担任以外の支援体制は?
     少人数加配
     TT
     学習指導補助
     その他(         )
4.「小1プロブレム」のような実態がありますか。あれば、具体的にお書きください。
5.3の支援体制が役立っていると思われる点をお書きください。
6.「小1プロブレム」を克服するために必要なものは何だと思いますか?
     (1)教育内容として
     (2)条件整備
     (3)その他
7.「くぐらせ期」ということばを知っていますか?
     はい     いいえ
8.「くぐらせ期」の実践を知っていますか?
     はい     いいえ
9.小1・2年生に限らず、子どもに関わって気になることがあればお書きください。
(2) 「くぐらせ期」の実践指導案例  国語科指導案 −「ひ」の授業−